ARBITRATION AND MEDIATION CENTER 紛争処理パネル裁定 Carl Zeiss AG 対 bing li, libing 事件番号 D2023-2641 1. 紛争当事者 申立人は,Carl Zeiss AGであり,その住所地はドイツである.申立人の代理人は,Sonderhoff & Einsel Law and Patent Officeであり,その住所地は日本である. 被申立人は,bing li, libingであり,その住所地は中国である. 2.ドメイン名および登録機関 紛争の対象であるドメイン名 本件ドメイン名の登録機関GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.com 3.手続の経過 本件申立書英語は,2023年6月20日にWIPO仲裁調停センター以下「センター」へ提出され た.センターは 2023年6月20日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を登録機関GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.comに要請した.2023年6月21日にGMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.comはメールによりセンターへ登録確認の返答をし,申立書に記載さ れた被申立人および連絡先細目と異なる情報を本件ドメイン名の登録者として公開した.2023年6月23日 に,センターは手続言語について両当事者に英語と日本語で連絡を送り,申立人へ登録機関により公開され たドメイン名登録者および連絡先細目を通知した.その際,センターは,登録契約は日本語であることか ら,申立人は申立書を訂正することができる旨案内した.申立人は申立書の補正書日本語を2023年6 月25日にセンターへ提出した.被申立人は手続言語に関して意見を提出しなかった. センターは申立書および補正書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」),統一ドメイン名紛争処 理方針手続規則以下,「手続規則」および WIPO 統一ドメイン名紛争処理方針補則 (以下,「補則」)に おける方式要件を充足していることを確認した. 手続規則第2条および第 4条に従い,センターは本件申立を被申立人に通知し,2023年6月30日に紛争処 理手続が開始された.手続規則第 5条に従い,答弁書の提出期限は2023年7月20日であった.被申立人 は,期日までに答弁書を提出しなかった.したがって,センターは,2023年7月21日に被申立人の懈怠を 通知した. 第 2頁 センターは,道垣内正人(Masato Dogauchi)を単独のパネリストとして本件について2023年8月8日に指 名した.紛争処理パネルは,同パネルが正当に構成されたことを確認した.手続規則第7条の要請に従い, 紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した. 4. 背景となる事実 被申立人は答弁書を提出していないが,申立書及び申立人の提出した証拠書類により以下の情報が本件の背 景となる事実として認められる. 申立人は,光学製品および電子工学製品を製造し,これらに関連するソフトウェアソリューションを提供す る世界的に有名なドイツの会社である. 申立人は次のとおり,ZEISSという商標権を有している. - 国際商標登録番号1485153: ZEISS (2019年3月26日に登録,2022年1月21日に日本で登録) 申立人は,その製品および役務についての出所識別のため,「MyZEISS」という語を使用している.例え ば,申立人のあるウェブサイトには「Maximize your product usage with MyZEISS」という記載がある. 本件ドメイン名は,2023年1月13日に登録された.本件ドメイン名は,商業的な目的でポルノグラフィッ クを内容とする画面にインターネットユーザーを導くものである. 5. 当事者の主張 A. 申立人 申立人の主張は以下の3つの部分に分けることができる. 第 1に,申立人は,本件ドメイン名は,申立人が権利を有する商標と混同を引き起こすほどに類似している と主張し,その理由として,申立人は ZEISS の商標を有しており,また,その商品および役務の出所識別 表示として,「MyZEISS」という語を使用しているところ,本件ドメイン名には「ZEISS」という語が完全 に含まれていること,また,一般的に用いられる形容詞である冒頭の「my」という部分とトップレベルド メインである末尾の".com"の部分は,「混同を引き起こすほどの類似性」の要件の審査においては無視され るべきこと,以上の主張をしている. 第 2に,申立人は,被申立人はドメイン名についての権利または正当な利益を有していないと主張し,その 理由として,申立人は世界的に有名な会社であり,その ZEISS という商標を被申立人が本件ドメイン名を 登録するにあたり知らなったことはあり得ないこと,被申立人は本件ドメイン名について商標権その他正当 な権利を有しておらず,本件ドメイン名の名称で一般的に知られていたこともないこと,そして,被申立人 はポルノコンテンツを含むアダルトサイトに本件ドメイン名を使用しており,インターネットユーザーに申 立人のドメイン名であると誤認させて本件ドメイン名に導き,商業的利益を得る意図を有していたことは明 らかであること,以上の主張をしている. 第 3に,申立人は,本件ドメイン名は,悪意で,登録かつ使用されていと主張し,その理由として,上記の 第 2のことから,被申立人が申立人の商標又は商品役務の表示との混同を生じさせることを認識したうえ で,意図的に本件ドメイン名を登録し,使用していることは明らかであると主張している. B. 被申立人 被申立人は何らの主張も行っていない. 第 3頁 6. 審理および事実認定 6.1 手続言語 本件ドメイン名の登録契約の言語は日本語である.申立人は当初,登録契約の言語は英語であるとの認識に 基づいて英語による申立書を提出したが,センターから登録契約の言語は日本語であることの通知により, 日本語による申立書を提出した.被申立人は,センターからの英語および日本語による言語に関して意見を 意見を求める連絡にもかかわらず,何らの意見も述べなかった.したがって,手続規則第11条(a)項に定め るとおり,本件の手続言語を日本語とする. 6.2 実体的要件 規則第15条(a)項によれば,パネルは,提出された申立書及び答弁書並びに書証に基づき,処理方針,規則 その他適用されるべきルール等に照らして裁定を下さなければならない.本件において被申立人は何らの答 弁も行っていないことから,パネルは,以下の裁定は申立人の主張及び申立人の提出した証拠に基づいて行 う. 処理方針第4条(a)項によれば,申立人は以下の 3項目のすべてを証明しなければならない. 「(i) あなたのドメイン名が,申立人が権利を有する商標または役務商標サービスマークと,同一または 混同を引き起こすほどに類似しており かつ (ii) あなたが,そのドメイン名についての権利または正当な利益を有しておらず かつ (iii) あなたのドメイン名が悪意で,登録かつ使用されていること.」 A. 同一または混同を引き起こすほどの類似性 パネルは,申立人が ZEISS の商標権を有していることを認める.本件ドメイン名は,申立人のZEISS の商 標をそのまま含んでいる.また,本件ドメイン名には「My」という語が付加されているが,これは一般的 に用いられる英語の形容詞であり,そのような語が付加されているからといって,本件ドメイン名と申立人 が権利を有する ZEISS という商標とが混同を引き起こすほど類似しているとの判断を何ら妨げるものでは ない.WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, Third Edition ("WIPO Overview 3.0")第 1.8項参照. なお,本件ドメイン名の末尾の".com"はドメイン名登録において必要とされる標準的なトップドメインの一 つであり,これはこの類似性の判断においては無視されるべきものである.WIPO Overview 3.0第 1.11.1 項参照. 以上により,パネルは,本件ドメイン名は申立人が権利を有する商標権等と混同を引き起こすほど類似して いると判断し,したがって,上記の処理方針第 4条(a)項(i)号の要件は満たされていると判断する. B. 権利または正当な利益 被申立人が本件ドメイン名について権利または正当な利益を有していないことを証明することは「存在しな いことの証明」に該当し,これを要求することは不可能を要求することになってしまう.そこで,申立人は 被申立人が本件ドメイン名について権利または正当な利益を有していない旨の一応の証明をしている場合に は,証明責任は被申立人に移り,被申立人が当該権利または正当な利益を有していることを証明しない限 り,被申立人は当該権利または正当な利益を有していないと判断すべきである.WIPO Overview 3.0第 2.1 項参照. パネルは,被申立人が「MyZEISS」という名称で一般に知られていること,および被申立人が申立人から ZEISSの商標の使用を許諾されていることを示す証拠を見出すことができない.また,本件ドメイン名は, ポルノグラフィックスを内容とするウェブサイトにインターネットユーザーを導くものであって,商品また はサービスの善良な提供を目的とするものであるは認定することができない.本件ドメイン名と申立人の商 標の構成に注目すると,本件ドメイン名は明らかに,申立人のウェブサイトを検索している可能性の高いイ ンターネットユーザーをそのウェブサイトに導くために,被申立人が選択したものである.申立人は以上の 第 4頁 ことについて,一応の証明責任を果たしているということができ,他方,被申立人は本件の手続において申 立人の主張を覆すための何らの証明活動を行っていないことが認められる. 以上により,パネルは,被申立人は本件ドメイン名について権利または正当な利益を有していないと判断 し,したがって,上記の処理方針第4条(a)項(ii)号の要件は満たされていると判断する. C. ドメイン名が悪意で,登録かつ使用されていること 申立人は世界的に有名な会社であり,その ZEISS という商標権を有し,「MyZEISS」という語をそのウェ ブサイトで使用していることから,そのことを被申立人が本件ドメイン名の登録時に知らなかったというこ とは極めてあり得ないことであると判断せざるを得ず,また,本件ドメイン名は商業的な目的でポルノグラ フィックを内容とする画面にインターネットユーザーを導くものであって,悪意での登録を窺わせる. 他方,被申立人が本件ドメイン名を悪意で使用しているか否かについて,パネルは,本件ドメイン名がポル ノグラフィックを内容とする画面にインターネットユーザーを導くものであり,被申立人が本件ドメイン名 について権利または正当な利益を有していないと判断する. 以上のことに対して,被申立人は何らの反論もしていない.したがって,以上に鑑み,本件ドメイン名を悪 意で登録し,かつ,悪意で使用していると認定することができる.WIPO Overview 3.0第 3.1.4項参照. したがって,記の処理方針第 4条(a)項(iii)号の要件は満たされていると判断する. 上記A,B及びCの認定から,以上のことから,申立人は,処理方針第4条(a)項の全ての要件が具備され ていることを証明していると判断する. 7. 裁定 以上の理由により,処理方針第4条(i)項および手続規則第 15条に従い,紛争処理パネルは本件ドメイン名 を申立人へ移転することを命じる. / 道垣内正人 / Masato Dogauchi パネリスト 日付 2023年8月9日
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